自分の伸びが、
これからの成長の鍵になる。
田中 将洋 さん / 「closet」オーナー
自分の伸びが、
これからの成長の鍵になる。
田中 将洋 さん / 「closet」オーナー
田中 将洋〈たなか まさひろ〉さん … 佐賀の伊万里で幼少期を過ごす。バレーボールをしていた高校時代、姉の紹介で訪れた福岡の有名サロンに衝撃を受けたのがきっかけで美容師を志し、新聞配達をしながら福岡の美容学校に通う。卒業後、福岡市内のサロンに2年間勤務するが、東京で働く美容学校の同級生の成長ぶりに愕然とし上京を決意。「表参道で一番忙しい店に」と入社したZACCに11年間在籍し、一般誌、業界誌、ヘアーショウ、ブライダル、タレントのヘアメイクなど幅広く活躍。また、資生堂のプロフェッショナルメイクスクール(サブファ)では最優秀賞を受賞。タカラベルモントの開業サポートを利用し、2011年3月に「closet」をオープン。
独立するときに「好きなことをした方がいいよ」とアドバイスされ、それなら「好きなお客様を呼びたい」と思いました。自分の好きなお客様に来てもらえる可能性をどれだけ増やせるか……。だったら「この人向けに」って決めちゃおうと考えて、このお店は、実際のお客様「中村さん」をイメージしてつくっています。
「中村さん」は、前のサロンに10年近く通ってくれていたお客様。時代の流れに合わせて常に髪型に変化を求めるオシャレな方です。彼女の紹介でサロンに来る方もたくさんいました。しかも、ご本人と同じ雰囲気を持ったとても感じの良い方々ばかり。良い意味ですごくおもしろいというか、担当していて楽しいお客様でした。
お店の場所を決めるときは、「中村さん」がよく行くと話していた伊勢丹から近い立地で、こういう静かな雰囲気だったら彼女に合いそうだな、とか。25坪のお店でセット面を4席にして余裕を持たせたのも、「中村さん」が来た時に価値を感じてもらえるかを基準にしました。結果、彼女は今も通ってくださっています。もちろん、「中村さんをイメージしてつくった」とは伝えていないですけどね。
とにかく最初の1年くらいは働き過ぎていました。お客様が結構来てくださったので、無理に予約を受け入れたりして。前に働いていた大型店の習慣もあって、「いけるだろ」と。完全にオーバーワークでしたね。1年経ったときに、売上は良いけれど、疲れがとれないとか、スタッフの成長につながっていないことに気づきました。そこから、意識的に客数を減らしていったんです。1日に20人だったのを13人くらいに減らして。また、今まで無理をして受け入れていた営業時間ギリギリのお客様を断るようにしました。
今お店では、月に2回ピラティスのレッスンを行っています。リスクはありましたが、あえて営業時間内に予約を止めて始めてみたんです。最初は、ダメだったらまた営業時間を延ばそうかなと思っていたんですが……。そのように営業時間を短くしていった結果、3年目くらいからは月火を定休日にして完全週休二日制を実現することができました。周りの方には驚かれましたけど、その後も売上は伸びています。あと面白かったのが、2日連続で休みがとれると、手荒れが治るんです。他にも休みを利用して勉強しに行くようになるなど、余裕も生まれました。
1店舗目をつくるときに、お客様が増えても対応できるようにデザイナーさんと相談し、セット面を6席までとれるようにしてもらいました。オープン後、実際にお客様が増えて、すごく悩みましたが、元々2台だったシャンプー台を1台増やしたんです。それでも足りなくて、いよいよセット面も増やさなきゃいけない、でも6席にしたら今の雰囲気が壊れてしまう……。色々考えて、歩いて1、2分のところに2店舗目をオープンさせることにしました。1店舗目オープンから4年、私も他のスタイリストも売上が伸びていたものの、席数が足りないためにある程度のところで止まっていました。それが、2店舗にわけて席数を確保できたことで、売上を伸ばすことができました。
どちらのお店も1階にあるので、路面店のメリット、広告の力を感じています。ふらっと立ち寄って、後日予約をしてくれる方がいたり、2店舗目は女性限定にしているので、男性のお客様が1店舗目に流れてきてくださったり。このエリアでは2店舗展開しているサロンがあまりないので、それ自体がお店の価値を上げる結果につながっています。
また、1店舗目はピラティスですが、2店舗目では整体を行っています。内側からの美と健康を提供でき、お客様からもとても好評です。
お店が2つにわかれ、スタッフの立ち位置が変わったことで意識も変化しました。これは私自身が経験上感じたことですが、立ち位置が変わると目線が変わるというか、情報の入り方が違ってくるんです。外部から「これをやれば成長するよ」といくら言われても伝わらない。本人が「これは重要な情報だ」と感じないと、吸収してくれない。そもそも気がつかないんです。たとえばアシスタントでも、お手伝い感覚でやっている人よりスタイリストへのステップアップを考えている人の方が、常に次を考えている分、成長が早かったりします。当たり前のことなんですが、スタッフの成長のためになるべく立ち位置を変えてあげられるように意識しています。
1、2年目くらいは、「この規模だとアシスタントはこのくらい必要」っていう美容室業界の慣習に従った人数で考えていました。でも実は、お店の能力がそこまで達していなかったのにスタッフの人数だけ増やしてしまっていて。ロスになっていたんです。スタッフが成長することもできないし数字も上がらない。実際に独立してみて改めて「こういう感じなんだ」とわかりました。今は、一人ひとりの能力が高ければ少人数でもいけるなと思っています。
11年勤めていたので、大型サロンの感覚がどうしても出ちゃうんです。今思い返すと、そのギャップでスタッフに迷惑をかけたこともあったかなと思います。オープンから1年くらい、その意識のずれに気づかなかったことが一番の問題でした。経営が落ち着いてきてやっと、「ちょっと違うな」と感じたんです。スタッフがあまり成長していない、その原因を考えたときに、自分がスタッフに言っていることを振り返ってみると、「あ、これって前のサロンのオーナーや先輩が言っていた言葉だ」って。同じことを今の小さなサロンで実践しても、意外と意味がないんです。だから、なにも伝わらないし、スタッフも成長しなかったんです。
2年目までは「商売としてどううまくやるか」「どう結果を出すか」が軸になっていました。3年目くらいからある程度商売として安定してきて、その分、「今後、自分がどういう風に仕事をしていきたいのか」「人生において、どういうことを軸にやっていきたいのか」を見つめ直すようになりました。スタッフにも、考えながら仕事をしてほしいと感じています。
年を重ねるにつれて、働き方も含めてライフステージが変わっていきますよね。特に女性スタッフは、結婚や出産でも変わるじゃないですか。「自分がどういう働き方をしたいのか」を踏まえて、そこを目指して動いてほしいです。そのモデルケースとして、まずは自分が形作っていきたいなと思っています。こういう小さいサロンでは、下を引っ張るというより上が育てば自然と、ぐっと底上げできるんじゃないかと。本当はオープン当初からするべきことなんですが、自分は器用じゃないので、同時に色々なことをやろうとするとわけがわからなくなっちゃうんです。迷った時に、いつも信頼できるパートナーの方たちに相談し、助けてもらいながら進んでいます、これからも、一個ずつクリアしながら着実にやっていきます。