10年先も、
良いと思ってもらえるサロンを
川村 正人 さん / 「ANell」オーナー
10年先も、
良いと思ってもらえるサロンを
川村 正人 さん / 「ANell」オーナー
川村 正人〈かわむら まさと〉さん … 宮城県出身。小学生の頃の将来の夢は、東京に出て社長になること。クセ毛に悩んでいた中学時代、姉の紹介で訪れた仙台のサロンで希望よりもずっと短くカットされてしまい、ショックを受ける。しかし、自分では失敗だと思っていた髪型を周囲のみんなから褒められたことから、美容師という職業を意識。この出会いに人生の転機を感じ、美容師を目指すように。仙台の美容学校を卒業後、上京し、池袋の美容室に就職。職場の先輩が立ち上げたサロンでの勤務を経て、2015年4月、池袋にANellをオープン。プライベートでは、中学の同級生と15年の交際を実らせ、結婚。第一子の誕生を控え、ますます仕事に邁進中。
10年先も「新しい」と思ってもらえる、普遍的に良い空間にしたいと、人間が魅力を感じる「自然」をテーマにしました。実は、店舗デザインやサロンの名前よりも先にロゴマークを決めたんです。昼と夜、日の出とともに滴り落ちる雫、さらに夜と朝の間の朝焼け、昼と夜の間の夕焼けをイメージ。金色の淵の幅を上下で変えているのは、視覚的に、重心が下の方にあると安心できると言われているから。このロゴマークがお店のコンセプトそのものです。
店内も、昼と夜のエリアに分かれています。さらに、夜をイメージしたシャンプー台に向かう途中にあるトイレを、夕焼け・朝焼けに見えるように演出してあるんです。お客様が店内を行き来することで、24時間を過ごせる、そんなストーリーのあるお店にしました。
美容室という感覚ではなく、疲れたときに来てもらえる場所にしたかったんです。お店の外には看板を置かず、エレベーターを降りると目に入る壁には、一枚一枚和紙を貼って一気に雰囲気が変わるように演出しています。入り口はあえてガラス張りにはしませんでした。さらに、扉を開けた瞬間、必ず目線が向く壁一面を緑化。お客様の日常を遮断するような環境に、とことんこだわっています。
具体的に「これならできるな」と思えたのは、サロンをオープンする1年半くらい前。タカラベルモントに足を運んで、開業支援担当の西江さんに「こう思うんです」と考えを伝えると、「それじゃだめ」と何度もダメ出しを受けながら、計画が洗練されていきました。
もうひとつ、オープン以来サロンの軸になっているのが「料金は下げずに、質を高めていくこと」。料金設定について迷っていた時に、西江さんに「料金を変えなくてもできることがあるのでは?」と言われたことがきっかけです。「10%引きキャンペーンをするなら、シャンプーを無料で差し上げた方が単価の高いお客様が残るし、特に女性には喜ばれる」「質が高ければ、お客様はお金を払うことにステータスを感じられる」と。
ズバッと意見を言ってくれる人が周りにいてくれて助かっています。困ったことがあったら素直に「助けてください」と頼れる方がいるのは、本当に恵まれていると思います。
リラックスできる環境と、商材です。青山・表参道・六本木などには取扱っている店舗があっても、池袋エリアにはないような商材を置いています。たとえば、シャンプーだけでも約30種類から選ぶことができます。「アロマでメンタルケアもできる」とか、「毛質を変える」とか、メリットを一つひとつ説明する、そんな当たり前のことだけでもお客様にとっては非日常なんだと思います。カラー剤も、オーガニック配合、オーガニック認証、妊婦さんも使える優しいものなど、コストはかかりますが、良いと思えるものを提供することが付加価値になっています。一般的には有名ではないけれど、その界隈では有名なブランドなど、ポイントを絞って探すようにしているんです。それは、あるブランドの営業さんとの出会いがきっかけ。そういえば、その方からも結構ダメ出しを受けました。「ヒーリング音楽をかけるなら、こういう曲がいい」とか。
常連さんに満足してもらえるサービス展開を心がけています。もちろん、料金を下げるのではなく、スパや薬剤の質を高めるとか、技術的なところ、提供の仕方を変えるなどして、初回にご来店いただいたときよりも内容を濃くしています。
昨年末には、単価や来店回数、総売上額でお客様のランキングを作成。上位の方に、シャンプーやトリートメントなどをプレゼントし、喜んでもらえました。「お客様のおかげで僕たちがいられます」と、常連さんや上客層の方には常に伝えています。素直に伝えることで、より応援してもらえるのだと思います。
実は独立後、客単価は少し下がっています。永久的に来てもらうにはどうすればいいか考え、「カットとカラーなら1万5千円」とか、「毎月2万円でこのくらいできます」と定額で提示することに。先々を見据えると、定額制の方が年配層に喜んでもらえるという結論に達しました。
自社アプリを導入しています。広告媒体も利用していますが、そこにも「自社アプリからの予約の方がお得」と書いています。「自社アプリからの予約で炭酸泉スパをプレゼントします」とか。常連のお客様もアプリから予約してくれるようになったので、営業中に電話をとる必要が少なくなりました。接客のとき、電話のために離れることがないのも、付加価値になっています。
レジもレシートも全部電子化し、フロントはできるだけコンパクトに。その分ソファでゆっくりしてもらえるスペースを広くとりました。最初は、アプリの利用を含めて電子化に抵抗がある方もいましたが、ペーパーレスにすることは環境にも良いと納得してもらえるように。サロンに雑誌を置かずにiPadがあることも、納得してもらいやすい材料になっています。実際に電子化のメリットを感じてもらえるので。
お客様には名刺も配りません。あるのは、アプリをダウンロードできない場合に読み込んでもらうQRコードのカードだけ。その代わり、アプリにはスタッフの名前もHPへのリンクも掲載しています。それが、僕たちの名刺です。
今年に入って、企業用LINEアカウントを取得し、予約を受けるようになりました。システムの予約では必ず隙間が出るのですが、お客様が増えてきて、システム上だけでは予約が取れないことが多くなってしまいました。そのため、来店後すぐに次回の予約を入れたり、中にはさらに次の分まで予約しておく方も。すると「今週行きたい」という方の予約が入らなくなり、クレームをいただいてしまったんです。そこで、LINEを利用してお客様と直接やり取りできるようにしました。予約の穴を埋めていく感覚です。時間の希望やメニューについて細かくすり合わせができるので、お客様のサロン滞在中の負荷も減りました。お客様からも好評です。
ほかにはないような、エンターテイメント性の高いサロンをつくりたいです。たとえば、プロジェクションマッピングで春夏秋冬を体感できるような。大がかりなものではなく、スイッチひとつで雰囲気が変わるような仕組みがつくれたらいいですよね。有名ではなくても、来てくれた方から「今までと違う」「このお店がいい」と言ってもらえる、それが理想です。